FOCUS

2012/02/01 UP

nero no.2

刺激を求める、雑誌『nero』の好奇心

text: Hiroshi Egaitsu

豪華でかつ抑制されたデザインの(実際に手にとるとモノトーンの表紙はシルヴァーが使われており効果的)、音楽を中心としたアートとカルチャーを扱う雑誌『nero』の第2号(paris issue)が出た。PhoenixとCharlotte Gainsbourg(シャルロット・ゲーンズブール)がカヴァーを飾る この雑誌を、事実上1人で実現した編集長、井上由紀子氏が、当たり前のことを当たり前にやっていくことの大切さ、刺激的なカルチャーを常に探しあてる秘訣について語る。

井上由紀子
magazine nero Editor in Chief 
大学在学時代に小山田圭吾とユニット(ロリポップソニック)を結成。後に小沢健二を含む5人組となり、89年に『海に行くつもりじゃなかった』フリッパーズ・ギターとしてメジャー・デビュー。バンド脱退後、『POPEYE』や『TVブロス』などで執筆をスタート。洋楽を中心に現在もファッション誌/CDライナー(FEIST、PHOENIX、GONZALES、MARK RONSON、KINGS OF CONVENIENCEほか)などで活動中。

この表紙を見ただけで、「おっ」と思う人も多いのではないだろうか? たとえ、とっさに何のためのグラフィックだったか思い出せない人も、見覚えはあるはず。これはBeatlesの7枚目のアルバム『Revolver』のジャケットのオマージュである。しかも、作品の題材に なったのはグラミー賞オルタネイティヴ賞を獲得し、「フランスの」という前置きがいらなくなったロック・バンド、Phoenix。題材にしたのは、何と1966年にBeatlesのためにこのコラージュを作ったミュージシャンとしても有名なKlaus Voormann(クラウス・フォアマン)自身。しかもそれだけでは終わらない。この雑誌のもう一方の表紙はCharlotte GainsbourgがNick Knight(ニック・ナイト)の撮影で飾っており、実際に頁をめくってみると、その素晴らしいセッションの模様とシャルロットが映画『Antichrist』に出演したことについてハッキリと、しかし彼女の話す様子が聞こえてくるようなパーソナルな調子のインタヴュー記事が掲載されている。


── これは雑誌ですが、掲載アーティストも井上さん自身がすべて選び、自分で交渉して、現地に行かれ、インタヴューをとって来たと聞いています。実際には雑誌というより、テキストとヴィジュアルで組み立てられた私的なステートメントと言った方がしっくりくるようでもありますね。

 「好きな雑誌がないから自分で作った、と言ってもいいと思います。立ち読みぐらいなら全盛期の『popeye』や『olive』などはもちろん目を通したことはありますし、『Lula』や『Fantastic Woman』など、気になる海外の雑誌はあります。けれども、私自身はじつは文学が好きなんです。どちらかと言うと、町田康さんの小説とかなら、800頁あっても今晩中に絶対読みたいと思うタイプです。ほとんどの雑誌にはいま現在、私の欲しい情報がないし、内容も誌面の関係上、さほど深くなかったりもするので、寧ろ、zineやタブロイドの方が好きです。実際、『nero』は雑誌らしい作り方もしていません。雑誌は普通、台割といって、頁を開いたらどうなっていくか、という地図のようなものがあって作られるんですが、 『nero』には存在しないんです。アート・ディレクターの大橋さんは非常にセンスのある方で、私の説明を直感的に理解して、ヴィジュアルで示してくださるので、2人でアイディアを出し合って形にしていっています。『1人で作った』と言っていただくことも多いですが、実際には大橋さんとデザイナー、NY在住のトランスレーターの4人でほとんどのパーツを作りました。例えば音楽や文学、あるいはアートやカルチャーが好きだったら、自然と目や耳に入ってくるものがあるでしょう? その本当に知りたい情報が、私の場合、どこにも載っていなかったりすることが多くて。でも、いまの時代は、それを実際に作っている人たちに(メールで)コンタクト出来ますよね。そこで交わした大切な時間を集めて、仲間と自然に作っていったんです」
 

── 伝説のKlaus Voormannには、実際に井上さんがコンタクトしてPhoenixとのコラボレーションも実現させたそうですね。Sofia Coppola(ソフィア・コッポラ)からCocoRosie(ココ・ロージー)、Jamica(ジャマイカ)からLaurent Brancowitz(ローラン・ブランコウィッツ)までが登場するこの『paris issue』ですが、特にオススメのアーティストはいますか。
 
「そうですね。個人的には最近は女の人が面白くて、気骨があると思います。ここに掲載している人の中でもSofia CoppolaやCarine Brancowitz(キャリン・ブランコウィツ)と言った女性陣は、特に知的でガッツもあって面白いように思います。あと、私がすごく気にいってるのは映像集団のMEGAFORCE。彼らはこれから絶対にくる! というか、もうヨーロッパではきてます(笑)。なにせMadonnaがNicki Minaj(ニッキー・ミナージュ)と M.I.A.を起用し、話題になっている次回作の映像を彼らに依頼しているくらいですから。私はそのリーダーがすごく好きです。ギャラリー・ページにも登場するレオ君ですが、パートナーになってほしいくらい人間的にも好きですよ(笑)。ものすごく頭も良いし、かっこいいし、優しい人で、今回、本当にいろいろ助けてもらいました。例えばおばあちゃんが階段を歩いていたら、話をしながらすれ違っても、すぐに気付いて荷物を上まで持って行ってあげるぐらい。本当に誰に対してもジェントルだし、才能もある人だと思います。彼に限らずいろいろなアーティストに職業柄会っていますが、『本物』の人って謙虚だな、と思います。ヴィジュアル・アーティストのCarine Brancowitzさんも素晴らしい人です。彼女の作品もそうですが、見た瞬間に良いと感じたら即、掲載すると決断します。彼女の場合もやはり実際に会ってみてもすごく素敵な人でした。じつはインタヴューをしているうちに意気投合して、最後には光栄なことに彼女の絵のモデルまで頼まれたんです(笑)。こう言うと、何か私がすごく語学が出来るように思われるかも知れませんが、見当外れなことをしょちゅう言ったりして、笑われています。でも、恐れることなく、心と向き合うようにしています。なぜならアーティストの作品を見たり聞いたりして気に入るのは、少なからず、自分の中にその要素が存在するからだと思うからです。きちんと向き合えば大抵の場合は意気投合します。そういう意味では書くという行為は、自己肯定だと思います。だから好きなものは好きだとハッキリ言いますし、疑問も口に出します。海外での取材はホテルからしてトラブルにあったりもするんですが、そういう場合も、私ははっきりと自分の考えを伝えます。いかなる状況でもコミュニケーションを出来ること自体、健全なことだと思っています」

── 詩人の谷川俊太郎氏が掲載されていたり、COSMIC WONDERの 前田征紀氏がタイのアーティスト、Wisut Ponnimit(ウィスット・ポンイミット)氏と対談したり、意外な人物もフィーチャーされていますが、 チョイスに基準はありますか。

「みなさん、自身のしらべや独特のリズムを持っていらっしゃる。そういう意味では音楽的と言えるように思います。谷川さんと覚和歌子さんが震災について触れられた連詩に関して、最初はスタッフの方からご提案を頂きました。実際の作業はどれもとても活気に満ちたものでした。そういう具合に積極的に関わっていただけた方も少なくないですし、Charlotte Gainsbourgの写真に関しては、最初はじつはNGだったんです。けれども、記事とヴィジュアルのコンセプトをきちんと説明したら、彼女のアート・ディレクターが、『あなたの雑誌は美しくて好きだ』と乗り気になって下さって。当たり前といえば、当たり前のことだと思います。いまは不安定な時代だと思うのですが、私はそれでも奇を衒わない、構えない、シンプルなアートが好きです。大人なら、最低ライン、エレガントじゃないと、とは気をつけています」
 
── 自分にあった音楽やアートを見つける秘訣はありますか。

 「音楽だったら、(気になったCDを)何百回でも自分が何か発見するまで聴くこと。 音楽ライターとして気をつけているのは、聴いている音楽の中から、何かひとつ一番気になる、心に留まるポイントをピックアップするということ。それがダイレクトに(読み手)に伝わればいい、と思っています。もちろんすべての作品に関して、ファースト・インプレッションだけで、善し悪しの判断が出来ない時もあります。じつは、(その後好きになった)ギター・ポップも最初は全然好きじゃなかったんです。特にThe Smithは最初、その良さが全然わからなかった。でも、当時のバンド仲間の小山田(圭吾)さんが『井上さんを洗脳するテープ』と題した(お手製テープを)何度も何度も作ってくれたり、一日中Smithを強制的に聴かされたりして(笑)。それでも私にはどれもこれも同じように聴こえて退屈で、正直、何回聴いてもわからない、と内心思っていたのですが、ある日、違って耳に届くようになって。『あっ、かっこいいかも』と気付いた(笑)。本当に洗脳されてしまったのかもしれません(笑)。でも、 基本は恋愛と一緒。ファースト・インプレッション。『良い!』と感じたら、自分の感性を信じて突き進みます(笑)」

── 『nero』はいわゆる音楽雑誌かというと、表紙からしてコラージュ的な部分が重要であったりする。とはいえ、デザインやアートの雑誌と呼ぶには小難しいところはありませんね。
 
「(視覚と聴覚に訴える)トータルなものが好きなんです。自分では冗談半分で『トータル・アート・ロマンス』って呼んでいますが、ロマンティックで、シンプルなものが好きです。ミュージシャンの曽我部恵一さんが『いつも歩いている道に咲いている花が、ある日ポトリと落ちてしまう。それだけで道全体の印象を変える。そんな風情のある世界を描きたい』と随分昔にお話ししてくださったことがあるのですが、アートは、そういうミニマルで美しい佇まいのものに、個人的には惹かれます」

『nero no.2』
監修: 井上由紀子
アートディレクション: thumb M
発行: melody / J-Planet.Co.,Ltd
発売: サンクチュアリ出版 / ウルトラヴァイヴ
¥2,310円[税込]

“nero paris issue” Release Party
2012.02.03 FRI
@bonjour records DAIKANYAMA
Music: Harvard / Tetsuya Suzuki (honeyee.com)
Talk Session: Yukiko Inoue (nero) × Hiroshi Egaitsu

Start 19:00 Close 21:00
CHARGE: Entrance Free
FREE DRINK: Bonjour Brown Water / Chateau Jun
FREE FOODS: Maison Cinquante Cinq
BALLOONS: Rouvle Balloon Design

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